「規律」と「即興」が共存する、白磁の現在地。
デジタルの不変性が情報の重圧として個人の感覚を覆う現代において、井上祐希はあえて「現実の脆さ」を起点に、伝統の新たな領野を提示する。効率や最適解が優先される中、人間国宝の祖父・萬二、そして父・康徳から継承した高度なロクロ技術による「規律」に対し、作家自身の指先による「即興」の造形を配す。そこには、計算された美学とコントロール不能な人間的な揺らぎの共存があり、この意図的な不調和こそが、最適化された世界では得難い「手触りのある身体感覚」を作品に宿している。
磁器特有の「割れる」という宿命は、利便性の中で忘却されがちな、対象を慈しみ守ろうとする精神を喚起する装置となる。伝統の静謐な時の流れに刻まれた個の痕跡は、日常に馴染みつつ、物質の確かな重みを鑑賞者に委ねる。
「用の美」を追求する規律を基底に、機能性と詩性を等価に扱うことで、時代が求める合理性と個の身体感覚を共鳴させる。そこには、新たな工芸の姿が立ち現れている。